2009年度 若手セミナー・支部研究成果発表会

応募について
プログラム
若手セミナー報告
支部研究成果発表会報告

 今回は、例年開催している若手セミナーと支部研究成果発表会を鹿児島大学にて同時に開催します。若手セミナーは、大学や企業の若手研究者や技術者を対象とし、低温技術や超電導技術の基礎を理解してもらうことを目的として開催するものです。今回は、超電導材料、線材、各種超電導マグネット、電力機器への応用技術について基礎的な内容を含めて講義を行っていただきます。
 この機会に支部会員にかかわらず、多数の若手を含む研究者・技術者が参加され、この分野での知識や交流を深められ、新たな視点による研究・技術の展開に寄与することを期待します。

主  催: 低温工学協会 九州・西日本支部
日  程: 2009年8月19日(水)〜 21日(金)
場  所: 鹿児島大学郡元キャンパス内 産学官連携推進機構棟 ディスカッションルーム
     〒890-8580 鹿児島市郡元1-21-24
こちら

プログラムの概略:
8月19日(水) 
13:30〜13:40  開会の挨拶  松下照男支部長(九州工業大学)
13:40〜17:00  支部研究成果発表会(発表公募)
18:00〜21:00  参加研究機関(研究室)紹介を兼ねた懇談会

8月20日(木)
9:30〜12:00  支部研究成果発表会(発表公募)
13:30〜17:00  特別講演(講師による講演会) ※詳細は調整中
18:00〜20:00  懇親会

8月21日(金)
9:00〜17:00 見学会:鹿児島県出水郡 長島風力発電所
  (バス:戻りは最寄りの九州新幹線駅を経由して鹿児島市内まで)
   こちら

定 員: 40名
参加費: 正会員及び大学院生 7,000円、非会員 10,000円
    (テキスト代、見学会、懇親会等を含みますが、昼食、宿泊費は含みません。
    同時に低温工学協会への入会申込みをされる方も正会員とみなします。 
    開催当日までに支部事務局の銀行口座宛お振り込み下さい。)
申込締切: 2009年8月5日(水)
申込方法:  参加申込書にご記入の上、下記事務局宛にFAXまたはE-mailにてお送り下さい。
       低温工学協会 九州・西日本支部 事務局 (九州大学 木須研究室内)
       Tel:092-802-3678 Fax:092-802-3677
       E-mail:jcryo_qw(at)sc.kyushu-u.ac.jp
参加費振込先: 福岡銀行 黒門(くろもん)支店(店番215) 口座番号: 普通 1612494
       口座名義: 低温工学協会 九州西日本支部 事務局 会計幹事 木須隆暢(きすたかのぶ)

問合せ先:  鹿児島大学大学院 理工学研究科 電気電子工学専攻
       川越 明史        Tel:099-285-8403 E-mail: kawagoe(at)eee.kagoshima-u.ac.jp

プログラム



九州・西日本支部若手セミナー・支部研究成果発表会報告



低温工学協会九州・西日本支部では、大学や企業の若手研究者や技
術者を対象として、毎年、超電導技術や低温工学の基礎を理解して
いただくことを目的として若手セミナーを開催しています。さらに
今年度から若手セミナーと支部研究成果発表会を一緒に行うことに
しました。これは参加者の負担を減らし、また発表により学生の意
識を高めようという目的があります。第8回目となる今回は、2009年
8月19日(水)から8月21日(金)の3日間、鹿児島市の鹿児島大学郡元キャ
ンパス内産学官連携推進機構棟ディスカッションルームにおいて開
催され、講師4名、大学院生他26名、教員他16名の合計46名が参加し
ました。支部研究成果発表会では大学院生の最近の研究発表が行わ
れ、若手セミナーとして講師からの講演および見学会があり、懇談
会、懇親会も行われました。

初日と二日目の午後前半までは、大学院生の最近の研究発表が行わ
れました。詳しい報告は下記にまとめます。

二日目午後後半は4名の講師による講演をいただきました。

山田穣先生(超電導工学研究所)からは「高温超電導線:高速、高Ic
化から超電導機器応用への展開」と題して超電導工学研究所での研
究にとどまらず広く研究紹介が行われました。現状として今後SMES、
トランス、電力ケーブルの3つの応用に先鞭をつける研究をおこなっ
ており、線材は最新の情報でSuperPowerが282A/cmで1kmを超えて
300,000Amを初めて超えたということでした。またAMSCは100m/hでの
製造ができるようになり、フジクラも追従しているということでし
た。講演では電気自動車の例が引き合いに出されて、超伝導も実用
化するときに同じように最終的な形を想像する必要性を強調されて
おりました。またちょうど総選挙にあたり各党のマニフェストにお
ける環境対策や超伝導研究について意識するようなお話しもあり、
普段研究では考えていない側面を教えていただきました。さらに風
力発電において超電導発電機を用いることにより小型軽量を実現す
るということが紹介され、これは見学会につながる話題でした。

富岡章先生(富士電機)からは「高温超電導変圧器の開発」と題して
これまで富士電機が行ってきた高温超電導体を用いたトランスの開
発を初期のところから丁寧に解説していただきました。初期のBi系
線材は機械的に強化されていなくて、触っただけでも特性が劣化す
るというような状態であったものの、1995年に世界で初のトランス
の開発に成功しました。また2000,2004年にも改良や大型化をすすめ、
着実に開発を進めていった様子をうかがうことができました。さら
に鉄道車両用として新幹線搭載を狙ったトランスを開発したが、残
念ながらまだ交流損失が大きくて、冷凍機も含めると重量が大きく
なるということでした。現在はY系コート線材を利用することで限流
機能付き高温超電導トランスを開発中であるという紹介がありまし
た。いくつもの質問に丁寧に答えておられました。

三戸利行先生(核融合科学研究所)からは「核融合用超電導システム
の開発研究」と題して核融合科学研究所にあるLHDの紹介を中心に講
演がありました。超電導技術は核融合を実現するために不可欠な技
術であり、すでにほとんど完成しているが、さらなる性能向上がよ
いということでした。核融合炉のマグネットは大型であることと高
い磁界を要求するので、構造材や安定化材などで線材の1/10程度し
か超電導線は無い状態であることが紹介されました。また超電導以
外でも日本最大級であるヘリウム液化冷凍装置の紹介があり巨大シ
ステムということを印象づけました。フランスで建設中のITERにつ
いて2018年にファーストプラズマを狙っているので、2013年には超
電導マグネットが完成している予定ということでした。次世代のヘ
リカルコイルとしてFFHR の構想があり、直径28mになるそうです。
これを2027年度に実現させようとすると、実はそんなに時間はない
という指摘がありました。つまり2020年代の中頃に建設を始めない
といけないとして、もし高温超電導を使おうというのであればここ
数年で結果を出さないといけないそうです。これには100kA級の大電
流容量超電導導体が必要になるので、それなりのR&Dが必要であり。
若い方々に期待するということでした。

最後に山藤馨先生(福岡工業大学)から「超伝導 雑感 −創造力
発揮の薦め−」と題した講演がありました。山藤先生は現在低
温工学協会の協会長で福岡工業大学の学長でもあります。研究では
Irie-Yamafujiモデルに代表されるようにピンニングの理論で超電導
界を牽引しましたし、教育の面でも豊かな人柄で学生を魅了してき
ました。今回の講演は岩熊先生からの依頼で実現でき、久々にお聞
きする山藤先生の講演を堪能しました。先生の研究を紹介しつつ、
各先生がどのような創造性を発揮してきたかを実例で示し、かつ学
生にどのようにして創造性を身につけていくかを解説する内容でし
た。まさに山藤先生でなければできない講演です。講演にはエジソ
ン、曾野綾子、ハリーポッター、ドラえもん、イチロー、しいのみ
学園の園長昇地三郎先生、樹木医山野忠彦先生、松下幸之助など実
に幅広い人物が取り上げられており、先生のカバーしている分野の
広さを改めに認識しました。先輩方がやった仕事の上に実は創造す
る余地がたくさん残っている、という指摘がありました。特に解が
一つではなくてさらに優れた高いものがあるかもしれない超電導で
は、創造性を育てるのにいい題材であることが強調されました。

これらの講演は大学院生向けにアレンジされていたので、初心者に
も分かりやすく大変好評でした。講師の先生方に改めて感謝いたし
ます。

三日目は見学会で鹿児島県出水郡長島町の長島風力発電所に行きま
した。長島は熊本の天草に近く、鹿児島県の西北に位置します。ま
ず長島ウインドヒル株式会社の所長から質問を入れて1時間ほどの説
明をうけました。風車は三菱重工業株式会社によるもので、発電機
はスペイン製のように風力発電がすすんでいるヨーロッパの技術も
かなり取り入れられているということでした。21基の風車はすべて
2.4MWの発電能力があり、3.5m以上の風速で動き始め、25m以上にな
ると安全のために発電をやめるそうです。2008年10月に運転開始し
ています。長島町には他に3業者が風力発電を行っており、合計で
26基の風車がありました。2009年7月は福岡県の豪雨で知られるよう
に前線が九州北部にあったために、風がよく吹いたのですが、8月は
ほとんど発電できないということで、見学の日もべた凪という表現
を使われていました。実際に6号風車に行き、風車の外観から見学
を行いました。風車の直径は92mで、最大で15rpmで回転しますが、
その時の先端の速度は260km/hにも達します。山の上に上がると若干
風が吹き始めて実際に動き始めました。そこからは360度あちこちに
風車が立っている様子を見ることができます。また特別に塔の内部
にも入ることができて、一人乗りのリフトや制御装置盤などをみる
ことができました。運転開始して間もないところで見学することが
でき、大変貴重な経験をさせていただきました。

最後に、お忙しいところ快く講師をお引き受けくださった先生方、
見学の機会を与えていただきました長島ウインドヒル株式会社の皆
様に深くお礼申し上げます。

(九州工業大学 小田部荘司)



研究会の様子


風車


参加者による記念写真


内部の見学


内部の様子



8月19日(水)
尾坂亮太(九州大学 円福・柁川研究室)
「MgB2超伝導線材を用いた固定子巻線の交流損失特性に関する有限要素解」
LH2ポンプ用のかご型誘導モータに用いられている固定子巻線に
MgB2を適用した場合の交流損失を有限要素法により解析した。その
結果、銅線で構成されている既存機より大幅に損失が低減でき、巻
線のスロット幅を大きく、ターン数を増やすことでさらに損失を低
減できることが分かった。

浦竹 勇希寛(九州大学 船木・岩熊研究室)
「TaバリアMgB2線材を用いた小パルスコイルの試作(3)渦電流による熱暴走」
Cu-NiシースTaバリアMgB2多芯線材を用いた試験用コイルを作製し、
広範囲な温度で過電流通電に対する熱的応答を測定した。温度が高
いほど熱暴走を抑えることが出来る許容発熱量が小さくなることが
分かり、12〜14 K付近で極大値が観測された。

嶋田 雄介(九州大学 中島・波多研究室)
「MgB2バルクの製作条件の微細組織に及ぼす影響」
Premix-PICT拡散法で作製されたMgB2バルクにおいて、熱処理条件の
異なる試料の微細組織観察を行った。一段階熱処理は全体的に均一
で小さな結晶粒が成長し、MgOが分散しているため、高磁界でのJcが
高くなることが分かった。一方で、長時間熱処理は円状の酸化物の
生成が増加し電流パスを減少させる可能性があることが分かった。

Xifeng Pan(九州大学 木須研究室 特別研究学生)
「A method to develop highly dense MgB2 superconducting materials at ambient pressure」
in-situ固相反応を用いた空孔の少ないMgB2の作製法を導入した。そ
の結果、粒間の結合がとてもよく、35.1%の高い有効電流路領域を
もつMgB2が得られ、それにより、臨界電流密度、不可逆磁界が向上
することが分かった。

吉留 佑介(鹿児島大学 住吉研究室)
「高アスペクト比断面をもつMgB2テープ線材の開発 ‐臨界電流特性‐」
MgB2フィラメントがテープ形状に圧延されることによる効果を定量
的に明らかにするため高アスペクト比断面をもつMgB2単芯線の特性
評価を行った。テープに対し、垂直・平行方向磁場の両方において
臨界電流密度が向上した。また、圧延による臨界電流密度の向上に
は限界があることが分かった。

野上 広司(九州大学 船木・岩熊研究室)
「低損失型Bi-2223超伝導多芯テープ線材におけるツイスト効果の評価」
ツイストを加えたBi-2223多芯テープ線材のヒステリシス損を測定し、
ツイストが及ぼす影響を定量的に評価した。その結果、高磁界振幅
領域で見積もったヒステリシス損失がin-situ Nb3Sn多芯線における
ツイスト効果を用いた計算結果とほぼ一致し、Bi-2223フィラメント
間に超伝導的な結合があると考えられる。

Rene Fuger(九州大学 木須研究室 PD研究員)
「Influence of neutron irradiation to HTS coated conductors」
中性子を照射したY系コート線材の各特性を評価し、照射の影響を調
べた。照射によりTcが低下した。平行磁界下ではJcが低下し、垂直
磁界下では向上した。また、照射後の試料は高磁界領域でJcが高く
なることが分かった。

Gracia Kim(九州大学 木須研究室 特別研究学生)
「Polarization-dependent Raman scattering spectroscopy of Rare earth based coated conductors」
様々な酸素圧中で作製したRE系コート線材においてX線回折とラマン
分光分析法によりスペクトルを測定した。より高い酸素圧で作製し
た試料が典型的なREBCOのスペクトルを示すことが分かった。また酸
素圧の変化は試料の酸素含有量に影響しなかったが、不純物相、金
属原子の乱れ、試料の組織等に影響を与えることが分かった。

Arkadiy Matsekh(九州大学 木須研究室 PD研究員)
「Low Temperature Scanning Laser Microscopy for Characterization of Thin Film HTS andCoated Conductors」
低温レーザー走査型顕微鏡(LTSLM)を用いて、チタン酸ストロンチ
ウムにより結晶界面を導入したYBCO薄膜の特性評価を行った。局所
的なI-V特性を評価することができ、結晶内のIcと界面間のIcの磁界
特性においてクロスオーバーが見られた。これにより、コート線材
の特性評価にLTSLMが有効であることが分かった。

星平 祐吾(鹿児島大学 住吉研究室)
「多芯テープ線材による超伝導コイルの性能向上」
磁界補正用コイルを付加したハイブリッド型コイルを提案し、結合
損失とIcを解析的に計算した。その結果、温度上昇を考慮した場合、
提案したモデルのコイルにおいて、コイルのアスペクト比を3にする
ことで、損失は1/2に低減し、Icは1.7倍まで向上することが分かっ
た。

牧原 知広(鹿児島大学 住吉研究室)
「伝導冷却型低温超伝導パルスコイルの小型化」
CuNiを用いた導体モデルを提案し、解析を行うことにより、安定性
を確保したままでSMES用コイルの小型化の可能性を検証した。CuNi
を用いることで損失を1/10に低減することができ、それにより装置
の直径を約40%、導体長を約20%低減できることが分かった。


8月20日(木)
本田 貴裕(九州大学 木須研究室)
「走査型ホール素子磁気顕微鏡システムによる高温超伝導線材の交流電流分布可視化手法」
走査型ホール素子磁気顕微鏡を用いた交流電流印加時における自己
磁界分布測定システムを構築し、交流電流分布を可視化した。30 A、
2 Hzの実験により、自己磁界分布、電流密度分布を可視化でき定量
性を検証できた。これにより、加工線材の電磁現象の評価に有効で
あるといえる。

東川 甲平(九州大学 木須研究室 PD研究員)
「磁気顕微法による高温超伝導線材の交流通電時電磁現象の可視化」
RE系HTS線材の交流電通電磁における電磁現象の可視化を行い理論と
の比較により、システムの妥当性を検証した。その結果、可視化し
た結果が局所的な電流密度・磁界分布特性を反映していることを確
認でき、局所的な損失特性やE-J特性が評価できることが分かった。

今村 和孝(九州大学 木須研究室 技術職員)
「IBAD/PLD法により作製されたGdBCO線材の磁界環境下における一軸機械歪依存性」
人工ピンを導入したGdBCO線材の磁界環境下において一軸機械歪印加
時のJc特性を明らかにした。磁界が強くなるほど歪に対するJcの低
下率が増えることが分かった。ピンニング特性について解析した結
果、任意の歪、磁界に対する電流輸送特性を定式化することができ
た。

川口 鉄平(九州大学 木須研究室)
「有限要素法を用いた高温超伝導コイルの磁気浮上特性の解析」
コイルの性能・電磁現象を把握するため、HTSコイルの磁気浮上特性
を題材とし、有限要素法を用いた数値解析の手法を確立した。コイ
ルの通電特性、鉄心の磁気特性飽和、三次元的なコイル間の電磁気
的相互作用を考慮することで、低電流領域で、解析結果が実験値と
一致することが分かった。

木元 武尊(鹿児島大学 住吉研究室)
「ポインチングベクトル法を用いた超伝導コイルの異常監視・診断システム−高感度化−」
超伝導コイルの異常監視・診断用システムに、ポインチングベクト
ル法を用いた非接触のシステムを提案した。このシステムにより、
異常場所を推測することが可能となり、実験・理論の両面からポテン
シャルリードを改良することで測定感度を向上させることができた。

宮原 和矢(鹿児島大学 住吉研究室)
「ピックアップコイル群によるHTS線材内の電流分布測定」
低損失加工された高温超伝導線材において、交流通電時の電流分布
を定量的に評価できるピックアップコイル群を用いた測定法を確立
した。コイル群の製作精度や設置精度の改善により、測定精度向上
が確認できた。また、電流分割数を増加することによっても精度を
向上させることができた。

中山 祐輔(九州工業大学 小田部研究室)
「GdBCOコート線材における磁化損失の形状効果の影響」
GdBCOコート線材において試料を層状に重ねて配置した場合の磁化損
失を評価した。試料を重ねることにより、低磁界領域で損失が低減
できることが分かった。また、Jcの磁界依存性を考慮して理論値を
計算した結果、高磁界領域において実験値とほぼ一致することが分
かった。

高橋 祐治(九州工業大学 松下研究室)
「CVD法によるYBCO線材の磁化緩和特性に超伝導層厚が与える影響」
IBAD/CVD法で作製されたYBCO線材において、超伝導層厚が臨界電流
特性に与える影響について調べた。厚膜過程において超伝導層が劣
化するため、低磁界領域では薄い試料が高いJcとなった。また、見
かけのピンポテンシャルを評価した結果、低温低磁界領域では薄い
試料、高温・高磁界領域では磁束クリープの影響が小さい厚い試料が
有利であることがわかった。

兒玉 青樹(九州大学 木須研究室)
「塗布熱分解法により作製された混晶系RE-123高温超伝導線材の電流輸送特性」
TFA-MOD法により作製された混晶系のRE-123線材のJc特性を明らかに
した。その結果、磁界中でのJcの向上、Jcの異方性の改善が見られ、
ピン力密度及び転移磁界が上昇していることが明らかになった。ま
た、結晶性が不十分であることが分かり、結晶の均一性を向上させ
ることにより更なる高Jcが期待できることが分かった。

井上 昌睦(九州大学 木須研究室 助教)
「改良型TFA-MOD法により作製されたY系線材の臨界電流特性」
低Ba溶液を用いた改良型TFA-MOD法により作製されたYBCO線材の、広
い温度・磁界領域におけるJc特性を測定した。改良線材において磁
界中のJcが向上し、統計分布がシャープになっていることが分かっ
た。また、パーコレーションモデルに基づいて、E-J特性を定式化す
ることが出来た。

中村 聡介(九州大学 船木・岩熊研究室)
「中間層IBAD-MgO基板をベースにした人工ピンZrO2+GdBCO超伝導テープ線材の交流損失特性」
中間層にMgO層を用いた人工ピン導入GdBCO線材に対して交流損失を
測定し、ピンなしGdBCO線材との比較を行った。ピンを導入した試料
においても温度スケーリング則が適応できることが分かった。また、
MgO中間層線材においても従来の線材と同様にピンの導入によりJcが
向上することが分かった。

渋田 寛(九州大学 船木・岩熊研究室)
「超伝導二本転位並列導体の巻乱れが付加的交流損失に及ぼす影響」
二本転位並列導体において巻乱れが発生した場合の付加的交流損失
について理論式の導出を行った。その結果、磁界振幅の増加に伴い
付加的交流損失も増加し、巻乱れが発生した場合、発生した位置に
関わらずできるだけ狭い範囲で巻乱れを修正したほうが付加的交流
損失を小さくできることが分かった。

乙成 貴明(九州大学 船木・岩熊研究室)
「YBCO超伝導変圧器の限流機能についての考察」
YBCO超伝導線材で構成される、限流機能を有した変圧器モデルにお
いて、線材の銀層の厚さを変え、短絡後の通電電流、温度上昇、常
伝導転移長の算出を行った。通電電流・温度上昇は銀層が薄いほど抑
えられ、常伝導転移長は厚さが20μm以上で全長となるため、銀層の
厚さは20μmが最適であることが分かった。

高山 洸(九州大学 船木・岩熊研究室)
「超伝導並列導体をコイル状に巻いた際の電流分流特性」
超伝導並列導体をコイル状に巻いた際の電流分流特性を計算し、実
験によって最適転位方法の有効性を検証した。層間転位・層内転位
の組み合わせにより、どの層数、素線数に対しても電流分流比を一
定にできる転位方法があり、最適転位方法が有効であることが分かっ
た。また、この方法によりコイルの大型化が可能であることが分かっ
た。

特別講演
山田 穣氏(超電導工学研究所)
「高温超電導線:高速、高Ic化から超電導機器応用への展開」
長尺特性を踏まえた線材開発の歴史、現状、実用化の状況を、線材
作製やMRI作製工程の貴重なビデオなどを含めて講演して頂いた。ま
た、今後の社会において、環境問題に対しても超伝導技術が重要で
あり、超伝導が低炭素化社会に貢献できることを講演して頂いた。

富岡 章氏(富士電機)
「高温超電導変圧器の開発」
変圧器を超伝導化することで、小型・軽量・高効率になることから、
変圧器の基本原理から富士電機における高温超伝導変圧器の開発例
や各種技術まで、実際のモデル機の試験結果も含めて講演して頂い
た。また、海外における開発例や変圧器の付加価値についても講演
して頂いた。

三戸 利行氏(核融合科学研究所)
「核融合用超伝導システムの開発研究」
1997年に完成した核融合装置Large Helical Device(LHD)について、
そのシステムや構造に加え、運転実績等について講演して頂いた。
また、LHDの建設・運転・高性能化のために現在進められている装置
改良や研究開発について述べ、そのために必要な超伝導技術につい
て講演して頂いた。

山藤 馨氏(福岡工業大学)
「超伝導雑感−創造力発揮の薦め−」
超伝導体の発見から現在までの歴史や、様々な理論など先人たちの
「創造」について紹介して頂き、今後の社会のニーズに合わせた技
術開発の必要性などについて講演して頂いた。また、若手研究者に
対して、先人たちの創造の上に立つことが「創造」であり、自分に
適した分野を見つけ、努力すれば人間は幾つになっても進歩できる
ことを説いて頂いた。


       中山(九州工業大学)