九州・西日本支部若手セミナー

「金属系超電導材料の現状と可能性」

本セミナーは、大学や企業の若手研究者や技術者を対象とし、超電
導技術や低温技術の基礎を理解してもらうことを目的として開催す
るものです。今回は実用に最も活用されている金属系超電導材料に
スポットを当てる事を考えました。酸化物系超電導材料の発見以来、
金属系超電導材料は研究開発の中心の座から去ったように思われて
います。しかし、この十年といったスケ−ルで見てみると、米国で
はNb3Sn線材の高磁界Jc特性の大幅な向上に成功し、16 Tダイポ−
ルマグネットや950 MHz NMRマグネットが実現しています。日本で
は歪特性に優れたNb3Al線材が実用段階に入りつつあります。さら
にMgB2の発見とその線材化技術の進展を考えるなら、この分野で飛
躍的発展が生じている事が分かります。さらに、実用超電導線材は
現在に至っても、金属系超電導線材のみであるという厳然たる事実
があります。低温工学の分野全体の発展を考えた場合、金属系超電
導材料の研究開発にもっと力が注がれる必要があると考え、このセ
ミナーを企画してみました。支部会員にかかわらず、多数の研究者・
技術者が参加され、この分野での知識や交流を深められることを期
待します。

主  催: 低温工学協会 九州・西日本支部
日  時: 平成18年9月27日(水) 13:10 〜 29日(金)17:10
場  所: 徳島大学 工学部 工業会館
徳島県 徳島市 南常三島2丁目1番地
      TEL : 088-656-5432
日  程: 9月27日(水) 13:10ごろをめどに会場に集合(チェックイン)
   13:20〜13:30 開会の挨拶                   井上 廉氏 (徳島大学) 
   13:30〜15:00 講義「Nb-Ti超電導材料の現状と可能性:仮題」  田中 靖三氏(ISTEC)
   15:10〜16:40 講義「ブロンズ法線材の高Sn濃度化とジェリーロール法線材の開発状況」
               岩城 源三氏(日立電線)
   16:40〜18:00 参加者による自由討論;自己紹介を兼ねる
9月28日(木)
    9:00〜10:30 講義「ブロンズ法Nb3Sn線材の高性能化と高磁場NMRマグネットへの適用」
               林 征治氏 (JASTEC)
   10:40〜12:10 講義「内部拡散法Nb3Sn線材の特性向上と応力解析」 久保 芳生氏(元三菱電機)
   13:30〜15:30 講義「RHQT−法Nb3Al線材開発」      竹内 孝夫氏(NIMS)
   15:10〜16:40 講義「MgB2超電導体の特徴と材料化の展望」  下山 淳一氏(東京大学)
   16:50〜18:00 講義「その他の金属系超電導線材の可能性」   井上 廉氏 (徳島大学)
   18:00〜    懇親会----工業会館、喫茶室
9月29日(金)
            見学会  四国電力(株)橘湾石炭火力、交直変換所
    なお、見学会後、16:50にバスは松茂町に止まります。関西方面へ
    帰る方はここで高速バスに乗換えが便利です。徳島周辺で週末を過
    ごされる方は、工学部又はJR徳島駅まで送ります。
    徳島駅着17:10を予定。
定  員: 40名

参 加 費: 正会員 16,000円、非会員 21,000円(宿泊費、テキス
    ト代、見学会費、懇親会費等を含む、相部屋1.000円引き、宿泊を
    希望しない場合9,000円引き、見学会を希望しない場合4,000円引き)。
    注:相部屋希望の方はペアで申込んでください。同時に学会入会申
    込みの方も正会員とみなします)。

宿泊施設: 「プラザイン徳島」088-626-1771(空港バス徳島大学
    前下車徒歩2分、JR徳島駅より徒歩15分)

集合場所:  徳島大学 工学部 工業会館(13:10までに)
アクセス方法:徳島空港から徳島大学へ 
        徳島空港 → 徳島大学前(徳島駅行きバス15分;約2本 / 時間)
            JR徳島駅から徳島大学へ 
            徒歩15分(バス便有り、本数少なし)
        京都、大阪、新神戸からJR徳島駅へ(速く、安い)
        高速バス(徳島バス、JR四国バス)で2〜3時間、
            約2本/時間、予約をお勧めします。補
            助席使用を許さないバスがあります。

申込締切: 平成18年9月12日(火)但し、定員に達し次第締め切ります。

申込方法: 参加申込書 にご記入の上、下記事務局宛にファックスでお送り下さい 。
        低温工学協会 九州・西日本支部 事務局(鹿児島大学 住吉研究室内)
        Tel:099-285-8413 Fax:099-285-8413
        E-mail:jcryo_qw@sc.kyushu-u.ac.jp

問合せ先: 2006年度 九州・西日本支部 若手セミナー 幹事
        徳島大学 工学部 井上 廉
        Tel:088-656-7462 E-mail: inouek@ee.tokushima-u.ac.jp


九州・西日本支部若手セミナー報告




 低温工学協会九州・西日本支部では、大学や企業の若手研究者や
技術者を対象として、毎年、超電導技術や低温工学の基礎を理解し
てもらうことを目的として若手セミナ−を開催してきました。第5
回目となる2006年度は9月27〜28日の3日間、徳島大学の工業
会館で開催しました。参加者は講師を含めて、36名で、電気学会の
地方大会とぶつかってしまったハンデ(これは主催者の情報収集ミ
スによるもので、参加できなかった若手の皆さんに深くお詫びを申
し上げます)を考えると、まずまずの参加人数だったと思います。
今回は「金属系超電導材料の現状と可能性」というテ−マで、実用
に最も活用されている金属系超伝導材料にスポットをあてる事を考
えて計画されました。酸化物超電導材料の発見以来、金属系超伝導
材料は研究対象の中心の座から去ったように考えられていますが、
実用の世界では、現在、独占的な地位を占めており、しかも、派手
ではないが、近年、着実な進歩も遂げてきています。

 セミナ−初日、27日は午後からのセミナ−で、ISTECの田中靖
三さんのNb-Ti合金材料の講義から始まりました。Nb-Ti合金は最も
多量に利用されている超電導材料ですが、最近は、まとまった話を
聞くチャンスがほとんどなかった材料です。その作り方、問題点、
人工ピン、今後の研究課題等を広く、要領よく、見据えた講義でし
た。次いで、日立電線の岩城源三さんのブロンズ法及びTa-Sn合金
を使ったNb3Sn線材の製造法の話がありました。高磁界特性を向上
させる努力の話で、従来、不可能と考えられていた高濃度Snブロン
ズでも種々の工夫で加工ができるようになり、特性向上も可能となっ
てきているという話でした。この日の最後は参加者による自己紹介
で、若手による自分達の研究室の研究内容紹介は、互いに研究刺激
を与えあう良い機会となったと思います。

 セミナ−2日目はJASTECの林征治さんのブロンズ法Nb3Snの講義
から始まりました。前日の講義とは異なり、NMRスペクトロメ−タ
−を中心とした実際の超電導マグネットの製作上の開発課題と連動
させたNb3Sn線材開発の話でした。企業での開発の視点がわかる講
義でした。続いて、元三菱電機の久保芳生さんの内部錫拡散法
Nb3Snの話は、三菱電機での内部錫拡散法Nb3Snの開発結果と、今、
ホットな話題となっているRRP法(内部錫拡散法の一種で、押し出
し加工の後、錫を複合する製法)で得られるNb3Sn線材の飛躍的な
特性改善を組み合わせた興味深い講義でした。

 2日目の午後は、RHQT法(急熱急冷・変態法)Nb3Alの現状に関
しての物材機構の竹内孝夫さんの講義が行われました。この製法の
Nb3Al線材は、高磁界特性が優れ、歪み感受性が極めて小さい等の
利点を持ち、実用直前の状態まで、開発が進んでいる事が紹介され
た。この材料開発は、物材機構を中心とする極めて限られた人数の
研究者の努力により生み出されたもので、まだ、いろいろの開発の
余地も残されており、もし、今後、大型応用などの後ろ盾が整えば、
Nb-TiやNb3Snと同様に大幅な特性向上が期待できるのではないかと
思わせる。次いで、今、金属系超電導材料の中で最も人気のある
MgB2について東大の下山淳一さんの講義がありました。この日本で
発見された超電導材料は40 K 程度の金属系超電導材料としては極
めて高いTcを持っており、合成も比較的容易だという事で、現在、
極めて研究が盛んになっている超電導材料です。この超電導材料の
問題点はHc2やJcがあまり高くないことで、この講演は種々の元素
置換等によるHc2やJc 向上に関する多くの研究結果を丁寧にまとめ
ており、極めて有意義な講義でした。この日の最後に、このセミナ
−の幹事の徳島大学の井上廉が、「その他の金属系超電導材料の可
能性」という講義を行いました。これは、この分野に進む可能性を
持った若手研究者に金属系超電導材料の潜在的可能性と魅力を認識
してもらおうと行った講義です。

 最終日の29日は恒例となっている見学会を行いました。セミナ−
参加者のほとんどが、電気電子工学科の関係者である事を配慮して、
見学場所は、四国電力の橘湾石炭火力発電所と交直変換所の見学を
行いました。前者は数年前に出来上がったばかりの最新式の火力発
電所で、風光明媚な橘湾の島の上に建設された設備で、環境対策に
万全の配慮をした発電所を見ることができた。後者は四国電力と関
西電力を結ぶ、日本最大の直流送電システムに直流を供給するため
の変換所のシステムで、もし、超電導送電が、直流方式で進むなら、
同じような大がかりな交直変換システムが必要になるはずで、その
点で、参加者一同が強く興味をひかれた最新式設備でした。
    (徳島大学 井上廉)



セミナー会場の様子


セミナー終了後の記念撮影


見学会の交直変換所の前で記念撮影


Last modified: Wed Apr 18 08:57:55 JST 2007