九州・西日本支部 2019年度総会・企業セミナー

 

 2019年度の九州・西日本支部総会・講演会を下記のように開催しました。

         記

日 時: 2019年4月25日(木)

場 所: 九州大学 伊都キャンパス 稲盛財団記念館 1階 稲盛ホール

     〒819-0395 福岡市西区元岡744

 

(1)総会: 14:30~15:00

 

  1. 2018年度事業報告

  2.2018年度決算報告

  3. 監査報告

  4. 役員交代

  5. 2019年度事業計画

  6.2019年度予算案

 

(2)講演会・企業セミナー 15:45~17:20

 主催:低温工学・超伝導学会 九州・西日本支部

 共催:九州大学大学院システム情報科学研究院付属

    先進電気推進飛行体研究センター

 

(1)15:45-16:30

   「航空機電気推進化に関する研究開発」

         九州大学 先進電気推進飛行体研究センター 岩熊成卓 氏

(2)16:30-17:15

   「航空機産業の現状と今後の展望-航空機電動化への期待-」 

         経済産業省 航空機武器製造産業局 航空機武器宇宙産業課

         航空機部品・素材産業室 係長 沼本 和輝 氏

 

(3)懇親会: 18:30~20:00

 

 

2019年度総会および企業セミナー報告

 

九州・西日本支部第18回総会を2019425日(木)午後230分より九州大学伊都キャンパス稲盛財団記念館1階の稲盛ホールで開催した。冒頭、出席者数と委任状の数より総会が成立していることが報告された。小田部荘司支部長の開会の挨拶のあと、議長に松下照男氏を選出した。続いて議事として、2018年度事業報告、会計報告、ならびに監査報告がなされ、全会一致でこれらは了承された。続いて、役員の交代について説明があった。福岡工業大学の井上昌睦氏が企画幹事に就任した。九州大学の吉田茂氏が委員に新規に就任した。また2019年度支部事業計画、2019年度予算案が諮られ、それぞれ全会一致で承認された。事業計画では、今年度は、若手セミナーが、10月に大分県由布院市にある福岡工業大学セミナーハウスで行われる予定である。総会後には事業会員12社の紹介があった。

 

総会に引き続き、午後345分より2名の講演者をお呼びして企業セミナーが行われた。司会は鹿児島大学の川越明史先生で行われた。

 

最初は「航空機産業の現状と今後の展望-航空機電動化への期待-」と題して、経済産業省 航空機武器製造産業局 航空機武器産業課 航空機部品・素材産業室 係長の沼本和輝氏が講演を行なった。

航空機市場は年率5%の成長をしている希有な分野である。アジアが航空機市場を作っていると言われている。航空機にはたくさんのサイズがある。その中でも、ナローボディといわれる120 – 230席が今後特に伸びるといわれている。

日本では航空機市場は、現在1.8兆円の規模である。ここから2030年には3兆円に伸びていくと期待している。15年前は防衛向けの市場であったが、民間需要が大きくなり、現在は、7割は民間需要である。産業の特徴としては企業の信頼獲得がとても重要である。たとえばB787では日本企業は機体については35%の参加比率になっている。ボーイングからは技術力、資金力など総合的に評価される。エンジン、機体には日本は参加しているが、飛行機の40%を締める装備品についてはあまり参加できていない。たとえばギャレー(航空機の中のキッチン)でさえも、軽量、強度、耐圧力など厳しい基準があり、参入は単純ではない。またボーイングと日本企業は関係が深いが、エアバスとはほとんど関係が無い状態である。今後エアバスへの参入機会を増やしていこうとしている。ボーイングと日本企業の関係は大きい。1.8兆円の内の5000億円はボーイングと関係している。

航空機は10年から20年で新しい機種の導入がある。したがって、このタイミングでの参入ができないと関係することは難しい。投資回収期間としては、15年から20年が必要で、企業の体力が必要となる。

 電動化について、航空機では大きなサイズ、中間、そして空飛ぶ車という小さいサイズでも電動化が進んでいる。なぜ電動化かというと、エネルギーの点からCO2削減が求められているからである。航空機では「2050年に2005年比でCO2半減」を目標としている。そのため電動化が大きい。電動化により、騒音削減、運行費用削減、CO2削減が期待されている。経産省としてはバッテリー、モーター、インバーターなど航空機用で技術開発することを支援する。また電動化された飛行機や空飛ぶ車のルール作りを考えている。平成31年度予算額7.0億円 (新規)で「次世代電動航空機に関する技術開発事業」を、NEDOを通じてスタートさせている。またルールとしては、「空の移動革命に向けた官民協議会」を2018年度に国交省と一緒にスタートさせている。

 また、航空機産業クラスターが全国各地で形成されている。これに参加している企業が分かるようにポータルサイトの開設をした。この講演の日に九州大学伊都キャンパスでは先進電気推進飛行体研究センターが開設されたが、九州大学だけでなくて九州の企業を巻き込んで行なって欲しいと説明され、講演を終えた。

Q 技術としてはどれが重要と理解しているか?Tier1(ティア1:一時請け)の創出が重要と思うが。

A ジェットエンジンでは戦後の混乱で日本は出遅れた。この電動化では日本のプレゼンスを上げる。またルール作りでも先導的に働く。まさにこのチャンスを捉えるべき考えている。

Q ジェットエンジンを使わないのであれば、日本だけで航空機を作れないか?

A MRJの例がある。しかし航空機はものすごい投資が必要である。ボーイングもエアバスも相当の数の企業とパートナーになり、開発を進めている。また開発できてもビジネスにならないといけない。

 

続いて「航空機電気推進化に関する研究開発」と題して、九州大学 先進電気推進飛行体研究センター センター長の岩熊成卓教授より講演があった。

 まず民間航空機市場は5%の年率で右肩上がりの珍しい市場を持っている。またCO2削減が求められているので、電動化が期待されている。さらに投資銀行やファンドはCO2削減をする企業に投資をしている。また燃料代がとても高いので電動化に期待が寄せられている。ジェットエンジンは技術的には飽和してしまっているので、電動化により3倍くらい効率がよくなる。実際にNASAが作った小型機では5倍よくなったと報告されている。

 現在考えられているのは、ガスタービンで発電、超電導ケーブルで電力を運び、超電導モーターを回転させるFully turbo-electric propulsion systemと呼ばれるシステムである。超電導モーターでないと重量的に無理である。従来の銅線や鉄芯を用いた電動モーターでは7倍くらい重くなる。なぜ超電導化で軽くなるかというと、磁束密度が高く、出力密度があがり、鉄心を使わないために軽量化できるからである。また銅損、鉄損、機械損が減り、高効率化に役立つ。

 

さらに電流が大きいために、超電導電力ケーブルでないと電力を運ぶことができない。しかし超電導技術の利用には冷凍機の問題がある。冷凍機はかなり重い。そこで燃料の液化天然ガス(LNG)の冷温を利用することができれば冷凍機の効率を上げることができる。将来、液体水素をもし利用することができればかなり違う。

具体的な例として、NASAN3-Xでの設計を紹介した。これをB777300 – 400人乗り航空機と比較してみる。機体の重量はB777160 tに比較して140 tとなり、かなりいい。もしシーメンスの5kW/kgの最新の常伝導モーターで設計すると20 tほど増加してしまう。N3-Xでは燃費も30%も改善される。離陸距離も半分ですむ。さらにN3-Xはたくさんあるエンジン出力を左右で変えることで旋回ができるので、垂直尾翼を省くことができる。エアバスもコンセプトを出している。

ここまできて、技術開発課題として、電機子交流損失低減技術、ケーブルの軽量化技術、ブレイトンサイクル冷凍機の軽量化技術が上げられる。これらに対して九州大学グループでは、これまで多数の研究開発を行なっていて、今回のボーイングとの協定に繋がった。

保有技術として、線材技術はAISTにある。交流損失低減技術としてスクライビングをして変圧器の損失低減を示した。また超電導モーターを試作し、三相同軸ケーブルの実証試験を日本で唯一行なった。冷凍機はターボブレイトン冷凍機があり、ネオンを冷媒とする。さらに、講演ではボーイングと九州大学の共同について触れられた。

最後に、空飛ぶ車について紹介があった。実際に飛ばすことに成功している。ただ技術的課題は航空機の電気推進化と同じであることが指摘された。現在は、空飛ぶ車に投資はすごく激しいので、個人的には飛ぶ車の方が航空機の電動化よりも早く実現するのではないかと、講演の最後を締められた。

Q 超電導ケーブルの三相同軸方式よりも軽くする方法はどうするのか?

A 中空なので径が大きくなってしまう。無駄な空間が多い。別な配置を取ろうと考えている。あまり長くないので、交流損失はあまり考えないことにする。

Q モーターの洩れ磁場はどのくらい許容できるか?

A シールドをつける予定である。鉄のヨークは排除せざるを得ない。

 

参加者総数は62名(講師2名含む)であった。

(九州工業大学 小田部荘司)

 

 

 

以上