低温工学・超電導学会
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九州・西日本支部 2016年度総会・企業セミナー



 2016年度の九州・西日本支部総会・講演会を下記のように開催いたします。
支部会員各位は是非ご参加下さいますようお願い申し上げます。
なお、支部会員には別途総会開催案内を電子メールにてお送りします。
ご欠席の場合には必ず委任状をご返送下さいますようお願いいたします。


         記

日 時: 2016年4月22日(金)
場 所: 電気ビル 北館12F 1207A会議室 
    福岡市中央区渡辺通2丁目1番82号    
    
(1)総会: 14:00〜14:30
  1.2015年度事業報告・決算について
  2.役員交代 
  3.2016年度事業計画・予算について
  4.その他 

(2)企業セミナー: 15:00〜17:00
  1.産業技術総合研究所 和泉輝郎氏
      「􏱥􏰘􏰛􏰇􏱥􏰘􏰛􏰇進化するRE系超電導線材」
  2.鉄道総合技術研究所 富田 優 氏
      「鉄道用超電導直流き電の開発」

(3)懇親会: 18:00〜20:00

当日の報告

2016年度総会および企業セミナー報告
九州・西日本支部第15回総会を2016年4月22日(金)午後2時より福岡市電気ビル北館12階1207A会議室
にて開催した。冒頭、出席者数と委任状の数より総会が成立していることが報告された。そして議長に小田
部荘司氏を選出した。圓福敬二支部長の開会の挨拶のあと、続いて議事として、2015年度事業報告、会計報
告、ならびに監査報告がなされ、全会一致でこれらは了承された。続いて、役員の交代について説明があった。
圓福敬二支部長が退任されて、熊本大学の藤吉孝則氏が新支部長に就任した。2016年度支部事業計画、2016
年度予算案が諮られ、それぞれ全会一致で承認された。最後に、藤吉孝則新支部長から挨拶があった。熊本県
で起った大きな地震から1週間後であり、福岡に苦労して来られていた。事業計画では、今年度は、若手セミナ
ーが9月に鹿児島大学で行われる予定である。

 総会に引き続き、午後3時より2名の講演者をお呼びして企業セミナーが行われた。司会は九州大学の岩熊成卓
先生で行われた。
 最初は「進化するRE系超電導線材-液体窒素中運転MRIを目指して-」と題して産業技術総合研究所の和泉輝
郎氏が講演を行った。和泉氏は3月まで超伝導工学研究所の所長と線材開発部長を務められていて、4月から産業
技術総合研究所に移籍されている。
 Y系は1987年にヒューストン大学のチュー教授によって発見されて、初めて銅酸化物超伝導体で臨界温度が液
体窒素温度を超えた。しかし、同じ頃に発見されたBi系よりも臨界電流密度が低すぎた。その原因は結晶構造が
2次元的であり、きちんと超伝導層を配向させないと臨界電流密度が高くならない。そこでコート線材という技術
を使って当初よりも1000倍の性能が出せるようになった。RE(Rare Earth)系の利点は低コスト、優れた高磁
界特性と機械特性、低い交流損失である。1991年にフジクラで開発されたIBADが現在世界中で7割ほど使われて
いる。これで高配向を得ることができるようになった。また短時間で高配向を得るための様々な工夫を続けてきた。
さらに長い線材を得るための努力がなされてきた。現在は577 A×1040 m=600 kAmまで来ている。低コスト化
ではTFA-MOD法を使うことが進められた。これでも300A×500mくらいはできるようになってきている。日本は2012年
までトップであったが、2015年6月に625 A×1000 mを韓国のSuNAM社が出している。
 超伝導機器では高磁界中特性を向上させる必要がある。この講演では液体窒素で動作するMRIについてターゲット
を絞って解説された。人工ピンニングセンターを導入することにより高磁界特性を改善することができる。特にc軸
に磁場が平行であるときに有効である。最終的にはEuBa2Cu3OxにBaHfO(BHO)を導入することにより、厚膜でも
低温度でも効果的に臨界電流密度の高磁界特性を向上させることができる。これはNb-TiやNb3Snなどの実用材よ
りも20 K, 30 K程度でも凌駕する性能を示している。MRIの要求事項としては3.6 TにおいてIc=534 A/cm-w
となる。すでに65 Kではこの性能を超えることが分かる。液体窒素は安価であり、比熱が高く有利である。MRIは
新興国を中心に堅調に拡大している。そこでも液体窒素で冷却できるのは有利である。
 課題は①遮蔽電流の制御②線材コストである。①についてはスクライビング線材の適応を考えている。遮蔽電流
はループの領域で決まるので、遮蔽電流が大きな領域で流れるのをスクライビングにより阻止することができる。
これにより安定した磁場を出せる。実際にテストコイルに磁場を与えて、試験を行った。その結果、分割するとコ
イルで有効であることを確認した。①に対する対策のもう一つは、温度依存性を利用した新しい運転方法を使う。
最初に高温で励磁して、それから温度を運転温度まで下げる。②についてはTFA-MOD法の進化がある。この方法は
磁場中でなかなか特性が上がらなかったが、熱処理パターンを変えて、人工ピンの大きさを細かくすることができ
るようになった。これで磁場中での臨界電流密度特性が良くなった。塗る層厚をできる限り薄くすることにより、
臨界電流密度がPLD法と同じ程度になってきた。これの延長線上でゴールが見えてきた。②については簡便な低抵
抗接続技術の開発が進められている。長尺は高コストであるので歩留まりのいい短い線材を接続できるといい。こ
れまでは銀拡散法を使っている。ただ、数時間酸素中でアニールする必要があった。ナノ粒子銀にコートして不活
性にして、150℃程度でナノ粒子銀がでてくるペーストを開発した。これで150℃1時間大気中で6 nΩが実現できた。
 今後の展開として、各要素は開発したので、これらを全部満たす線材を作る必要である。また実際に小型機の試作
を行って撮像実証をする必要がある。さらに大型コイルの実証とシステム開発により実用化にしたい。他の機器への
展開も考えたい。たとえば重粒子線のガントリー、超伝導モーターなどが考えられる。最後に個人的見解として、超
伝導機器の機能実証をしたい、ここで線材メーカー、機器メーカー、ユーザーが協力しなければならない。線材の
安価・安定供給への貢献をしなければならない。そのためには継続した高性能化、また銅酸化物超伝導体は高温で使う
ことを目指すべきと締めくくった。
質問:
Q新興国で1.5 T MRIの可能性はないか?
Aコストから可能性はあると答えられた。実際には特性込みのコストで1/10を目指している。3倍の性能で1/3のコス
トでいい。
Q先進国では磁界をあげて、MRIの性能を高機能にすることは考えられないか?
A高機能にすると、商売になるかは分からない。ユーザーとの対話が必要だと思う。まず機器の実証をすることが企業
を説得するのがいい。国を説得するには、夢を語る必要がある。
Q遮蔽電流を評価する指標として何を使っているか?
A起動して数時間で使えるということをユーザーと話したことがある。
Q極めて高い磁場を実現するのは夢としては必要では無いか?
A今回は65 Kで3 Tを実現するが、温度を下げれば高磁界にいける。

 続いて2番目の講演は「鉄道用超電導直流き電の開発」と題して鉄道総合技術研究所の富田優氏により行われた。
超伝導は抵抗が無く特に直流であれば、交流損失1 kW/kmを出さないので、有利である。特に鉄道では直流が使わ
れているので、自然に利用できる。JRの在来線は全線の36%、(非電化40%)民鉄では72%が直流である。直流の
場合には10 kmとか首都圏では2kmで変電所が必要である。したがって首都圏では施設代2億円とか場所も取る。
メンテナンスも年に数千万もかかる。さらに回生率の向上、き電系損失の低減なども、冷却電力が必要ではあるが、
トータルでは省エネに繋がり有利である。直流は電圧を下げて、電流をあげて送電するので、トンネルとか絶縁距
離がないところでは使われている。またつくばエクスプレスの特殊な送電についても解説をされた。
 具体的な導入例としては、既存の設備に対して、交換するのでは無くて、並列に超電導ケーブルを入れることを
狙っている。この場合には、超伝導ケーブルにトラブルがあっても既存の設備で十分に動かすことができる。しか
も回生失効の抑制が期待できる。また首都圏では超伝導線を入れることにより、疑似変電所を導入したことと同じ
になる。実際の導入の検討結果によれば、5分当たりで、74 MJの冷却エネルギーを費やしても投入エネルギーを
582 MJから56 1MJに減らすことができる。これはジュール損失だけでなく、回生エネルギーが有効に回収でき
るからである。さらにこれは変電所の数を従来の5から3に減らしてもほぼ同じ562 MJであり、変わらない。また
変電所最大電流も従来の2.1 kAから1.8 kAに下げることができる。
 2007年から超電導ケーブルの試作を行っている。Bi系もRE系も使っていて、現状はBi系が臨界温度の面から有
利であり、トンネルとか鉄橋とか冷却ステーションがおけないところでBi系を使い、他はRE系が使えないかと考え
ている。8 kA級超伝導ケーブルを試作している。遮断器は標準的に8 kAが多いので、平均的な容量として8 kAを
設定している。トラフに入れるためにはある程度小型化する必要がある。実際に10 kAの通電ができるようになっ
た。冷却方式としては、冷凍機が止まっても動き続ける、間接冷却方式を検討している。2012年には30 mを作った。
2013年には300 mをつくった。2014年には構内試験線に設置された300 mで実験を行ってプレス発表をした。2015年
度には営業線における実験を行っている。300 mではかなり実践的に設置した。特に熱収縮対策は念入りにやった。
結果的には踏切で固定したところがあり、固定していない部分で収縮を吸収した。
 今後の検討項目として、安定的に動かせるために、電流の変化による損失、真空断熱層からの侵入熱、電流リード
からの侵入熱を検討している。輻射熱侵入の低減のために、真空度の向上と多層断熱の導入を検討している。このた
めに様々な試作をして実験を行っている。今後も慎重ではありながら、確実に実験をすすめていきたいと見通しを
語った。
質問:
Q回生率はまだ上がらないか。どうやって決まっているのか?
A他の電車がその区間に走っていることが必要で、そういう意味で超伝導は有効に働く。もっと長い区間を作れば回
生率はあがる。
Qエネルギーストレージと比較してどうか?
Aある程度の容量を超えると超電導ケーブルがいい。小さいところではストレージは有効である。
Q冷やすという低温工学のウェイトが大きい。これを鉄道総合技術研究所ですべてやっているのか?
A鉄道独特の部分が多く、自前で研究している。もちろんメーカーと協力している。
Q RE系はどこが問題であるか?
AまずRE系は手に入りにくい、コストが高い。またRE系は77 Kよりも低い温度にしないといけない感じがある。もっと
作り手側と相談する余地はある。
Q 熱侵入は?
A 2 W/mを想定している。
Qケーブルに限流機能があるのはいいことか?
Aあった方がいい。
Q回生時に交流損失はでないか?
Aあまり大きくは無い。一番激しいのは雨天の時の車輪が空転しているときで、10 Hz程度の電流の変化が起っている。
Q直流ケーブルは鉄道だけか?
A電力関係でも議論されることがある。鉄道だけでもかなり大きい。

参加者は企業、大学職員、大学生など36名であった。

(九州工業大学 小田部荘司)




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