第3回 材料研究会/九州・西日本支部 合同研究会のご案内


鉄系超伝導物質の発見から約1年半以上が経過し、短期間の間に材
料的、物性的な知見はかなり蓄積されてきました。鉄系超伝導物質
のTcはMgB2より高く現状で55Kに達していること、反強磁性の母物質
にキャリアドープすることで超伝導性を発現するようになったといっ
た銅系高温超伝導物質との類似性や、8000種類にも及ぶ多くの候補
物質の存在が室温超伝導物質発見への期待をかき立てます。今回は、
新物質探索、物性、合成、薄膜作製、線材作製、超伝導特性などの
広い観点から鉄系超伝導物質の最新の研究状況を講師の先生方に紹
介していただきます。鉄系超伝導物質の合成・評価などの勘所など
も掴んでいただいて、皆様の研究の一助となり、新しい技術が生み
出される機会となることを期待しております。多数のご出席をお待
ちしております。

テーマ:鉄系超伝導物質の最新情報−鉄系高温超伝導に進化できるのか−



日 時: 2009年12月22日(火) 13:30〜17:30
会 場: 九州工業大学 戸畑キャンパス 総合教育棟C-3C講義室 この地図の(49)の下あたりです。
    〒804-8550 北九州市戸畑区仙水町1-1
交通案内:こちらをご参照下さい。
飛行機で福岡空港からおいでの方は こちらから。
参加費(資料代):2,000円(どなたでも自由に参加できます)

プログラム

13:30〜13:35 開会の挨拶 材料研究会委員長
13:35〜14:15 (1) 新しい鉄系超伝導物質の構造と物性:高野 義彦(NIMS)
14:15〜14:55 (2) 中性子散乱でみたFe(Se1-xTex)0.92 (x=0.75,1) の反強磁性磁気揺らぎ:飯久保 智(九工大)

休憩

15:20〜16:00 (3)鉄系超伝導体における臨界電流密度評価:小田部 荘司(九工大)
16:00〜16:40 (4) 鉄系超伝導体の薄膜化の試み:向田 昌志(九大)
16:40〜17:20 (5) エピFe-Te-S系超伝導薄膜の作製と物性:松本 要(九工大)

 閉会

 オーガナイザー:原田直幸(山口大)、土井俊哉(鹿児島大)、松本要(九工大) 
 問い合わせ先:鹿児島大学大学院理工学研究科 土井俊哉
TEL 099-285-8389 FAX 099-256-1356
E-mail: E-mail:doi(at)eee.kagoshima-u.ac.jp

当日の様子

 2009年12月22日、九州工業大学戸畑キャンパス総合教育C-3C講義室において材料研究会
との共催で、「鉄系超伝導物質の最新情報 −鉄系高温超伝導に進化できるのか-」のテーマで研
究会が開催された。
 鉄系超伝導物質の発見から約1年半以上が経過し、短期間の間に材料的、物性的な知見はか
なり蓄積されてきた。鉄系超伝導物質のTcはMgB2より高く現状で55 Kに達していること、反
強磁性の母物質にキャリアドープすることで超
伝導性を発現するようになったといった銅系高温超伝導物質との類似性や、8000種類にも及ぶ
多くの候補物質の存在が室温超伝導物質発見への期待をかき立てます。今回の研究会では、新物
質探索、物性、合成、薄膜作製、線材作製、超伝導特性などの広い観点から鉄系超伝導物質の最
新の研究状況を講師の先生方に紹介していただきました。
 まず、材料研究会の松本委員長の挨拶で始まり、「新しい鉄系超伝導物質の構造と物性」と題
して(独)物質・材料研究機構の高野義彦氏が講演を行った。鉄系超伝導物質の共通点とバライ
ティーについて、結晶構造と磁気秩序の観点から解説がなされた。その後、鉄系超伝導物質の仲
で最も構造がシンプルなFeSe, Fe(Se, Te)についての最新の研究成果が紹介され、FeSeのTc
常温では8 K程度であるが高圧力下では37 Kまで大幅に向上すること、SeのFe面からの高さ
Tcの間に強い相関があること、このFe面からのSe(As)の高さは鉄系超伝導物質全体に共通
する性質であることなどが報告された。また、FeSeとFeTeの固溶体Fe(Se1-XTeX)の結晶構造
変化と磁気秩序についての詳細な研究結果が紹介され、構造層転移&磁気転移と超伝導の競合が
あることが示された。
 次に、九州工業大学の飯久保智氏が「中性子散乱でみたFe(Se1-xTex)0.92 (x=0.75,1) の反強磁
性磁気揺らぎ」の演題で講演を行った。中性子散乱の原理について詳しい解説と、銅系酸化物超
伝導物質での研究結果が紹介され、その後、鉄系超伝導物質の磁気揺らぎに関する最新の研究結
果が示された。超伝導性を示さないFeTe0.92とは異なって、同じ結晶構造で超伝導を発現する
Fe(Se1-XTeX)YではFeAs系超伝導物質と共通の波数ベクトルを持つ磁気揺らぎが観測されること
から、磁気揺らぎが超伝導性の発現に密接なかかわりがあることが指摘された。
 続いて、九州工業大学の小田部荘司氏が「鉄系超伝導体における臨界電流密度評価」の演題で
講演を行った。Campbell法による粒内と粒間のJc評価法に関する解説の後、様々な組成、製法
によるFeAs系超伝導体のJc特性が詳細に報告された。現状の線材やバルク体試料では粒内Jc
は106〜107 A/cm2と高いものの未反応部分、空隙、異相などが多すぎるために輸送Jcが小さいと
結論づけた。
 九州大学の向田昌志氏は「鉄系超伝導体の薄膜化の試み」の演題で、九大グループの最新デー
タの紹介と国内外の最新研究のレビューを行った。鉄系超伝導薄膜の作製には組成の厳密な制御
とキャリア量の制御が重要であって、PLD法でも一定品質の薄膜が作製できたものの、MBEなど
の超高真空装置を使用する手法が有利であることを指摘した。
 最後の講演は九州工業大学の松本要氏が「エピFe-Te-S系超伝導薄膜の作製と物性」のタイトル
で行った。鉄系超伝導物質特有の層状構造を持ちながらAsを含まないために取り扱い易く、鉄
系超伝導物質を理解するためのモデル物質として有効であると考えられるFe(Te0.8Te0.2)のエピタ
キシャル薄膜の作製方法と特性評価結果が紹介された。Fe(Te0.8Te0.2)は等方的(γ〜1.09)な超伝導体で
あり、Tcが低い割には非常に高い上部臨界磁場Bc20〜74Tを有し、コヒーレンス長が大変短いことが報告
された。
 最後に材料研究会長の松本氏が閉会の挨拶を行って散会となった。年末の開催であったにもか
かわらず24名の参加者があり、予定時間を1時間余りオーバーして活発な討論が行われ、鉄系
超伝導物質の大きな可能性と今後の研究の広がりを予感させる盛会であった。末筆ながら、講演
者の皆様、会場の準備をしていただきました九州工業大学の先生方をはじめ関係各位の皆様に感
謝いたします。(鹿児島大 土井俊哉)