第3回 材料研究会/九州・西日本支部 合同研究会

第3回 材料研究会/九州・西日本支部 合同研究会のご案内


 超電導はゼロ電気抵抗というユニークな特性を有しており、その特性を
活かして様々なマグネットの形で超電導機器として応用することが期待さ
れています。その技術がカバーする範囲は電力、電子産業、交通、環境、
医療など極めて広範囲な分野に及び、これら技術を支える総合的な技術で
す。特に、近年顕在化してきたエネルギー問題や地球環境問題などの21世
紀の課題の解決において、超電導技術が期待される場面は急速に広がって
きています。
 今回は、21世紀の課題を解決するために、今後、飛躍的な発展が期待さ
れる新しい超電導材料科学の様々な側面を、専門の講師の方々に語ってい
ただくこととしました。超電導発現に必要な物質・材料およびその創成か
ら、材料として必要な電磁・熱・機械的特性、さらに上記の課題を解決す
るため超電導技術はいかにして社会に浸透していくべきか、等々を講師の
先生方のこれまでのご研究を踏まえて展望していただきます。
 新しい高温超電導物質の発見や、Y系やBi系、MgB2超電導線材などの発
展も目覚しく、超電導技術はここにきて新たな展開が予感されます。低温
工学・超電導学会前日の開催ですので、多忙なエンジニア・研究者のみな
さんの議論と情報収集の場となることを期待します。

■テーマ:21世紀の課題と新超電導材料科学

■日  時:2008年11月11日(火) 14:00〜17:45
■場  所:高知市文化プラザ「かるぽーと」内 
      高知市中央公民館第 3 学習室(9 階)
      〒780-8529 高知市九反田 2-1
      http://www.bunkaplaza.or.jp
■交通案内:詳細については「かるぽーと」HP
      http://www.bunkaplaza.or.jp/access/index.html
      ○高知龍馬空港より
      ・空港連絡バスで 30 分 はりまや橋下車 徒歩 5 分
      ・車で 30 分
      ○ JR 高知駅より
      ・徒歩 20 分
      ・土佐電鉄(路面電車) はりまや橋下車徒歩 5 分、
                  菜園場(さえんば)下車徒歩 3 分
      ・土佐電鉄/県交通バス 八幡通下車徒歩 1 分
      ・車 5 分
      ○高知インターチェンジより
      ・車で 10 分
■参加費(資料代):2,000円(どなたでも自由に参加できます)

■プログラム
開会の挨拶 松本 要(材料研究会委員長)    14:00〜14:05
1. 21世紀の課題と新超電導材料科学の必要性
        松下照男(九州工大)       14:05〜14:45
2. 固体化学の観点から―強い超電導材料の設計と創成
        下山淳一(東京大)         14:45〜15:25
3. 原子・分子を積み上げる―ナノ構造と超電導特性
        吉田 隆(名古屋大)        15:25〜16:05
  休憩                   16:05〜16:25
4. 電磁気的観点から―実用材料の開発に向けて
        木須隆暢(九州大)         16:25〜17:05
5. 超電導応用のためのキーテクノロジー
−超電導材料科学の果実をユビキタス超電導につなげるために
        雨宮尚之(京都大)         17:05〜17:45
閉会  

■オーガナイザー:松本 要(九州工大)、岩熊成卓(九州大)
前田敏彦(高知工科大)
■問い合わせ先:九州工業大学大学院工学研究院物質工学研究系
        松本 要 
        TEL:093-884-3366 FAX:093-884-3377
        E-mail:matsu(at)post.matsc.kyutech.ac.jp


当日のレポート



 2008年度の九州・西日本支部研究会が、第3回材料研究会との共
催で、2008年11月11日(火)、高知市文化プラザ「かるぽーと」に
おいて開催された。今回のテーマは、「21世紀の課題と新超電導材
料科学」というテーマで以下のような5件の講演をお願いした。11
月12日(水)から14日(金)の期間で、同じ「かるぽーと」におい
て開催された2008年度秋季低温工学・超電導学会の前日ではあった
が、多数の方々にお集まりいただき、参加者は講師を含めて37名で
あった。

 以下に講演内容を記す。
テーマ「21世紀の課題と新超電導材料科学」
1.21世紀の課題と新超電導材料科学の必要性
		九工大	松下照男
2.固体化学の観点から―強い超電導材料の設計と創成
		東大	下山淳一
3.原子・分子を積み上げる―ナノ構造と超電導特性
		名大  	一野祐亮(吉田 隆と交代)
4.電磁気的観点から―実用材料の開発に向けて
		九大	木須隆暢
5.超電導応用のためのキーテクノロジー  
超電導材料科学の果実をユビキタス超電導につなげるために
		京大	雨宮尚之

 最初に、材料研究会委員長から開会の挨拶の後、九工大の松下氏
から、抵抗ゼロや巨大量子化を応用する超電導技術はエネルギー問
題や地球環境問題の解決に直結しており、超電導技術をあらゆる場
所に浸透させ、人々が超電導を意識しないで、この技術を利用して
生活するユビキタス超電導社会を目指すことの重要性が示された。
そのためには、このような高度な社会を実現するための新超電導材
料科学構築の必要性が強調され、特に超伝導体の凝縮エネルギーや
ピン止め力、ピン密度の飛躍的な特性向上等を例として説明がなさ
れた。

 東大の下山氏からは、新超電導材料科学の構築においては超電導
物質そのものの均一性の向上が重要であるとの報告があった。複数
の元素から構成される超電導体を利用して線材等を作製する場合、
通常の製造方法では局所化学組成の変動は必ず存在し、特にRE123
やBi2223においてはより顕著である。現状では、物質本来の“強い
超電導特性”が実現されていないと考えられ、新超電導材料科学で
はこのような観点からの性能向上の研究が大変重要になるとの指摘
がなされた。

 続いて、名大の一野氏は薄膜手法の立場から、高温超電導材料の
性能向上の研究について報告した。近年の薄膜法Y系線材の進展に
伴って、線材の磁場中特性の向上が大きな話題となっている。そこ
で、超電導薄膜を成膜する際に、原子分子レベルから、BaZrO3など
の異物質を同時に薄膜中に導入することで人工ピン止め点を形成す
ることができ、大幅なJc特性の向上が実現できることを多数のデー
タに基づき示した。線材への応用やピン止め点の形成機構について
も詳細に報告された。

 前半の物質・材料サイドの発表に加えて、後半では超電導材料の
電磁気的、熱的、機械的特性に関する2件の講演が行われた。九大
の木須氏は、超電導線材、特にY系薄膜線材の実用性を表すパラメー
タであるIcに着目し、その性能のミクロからマクロスケールにわた
る微細組織との関連を解明することの重要性について述べた。開発
中の低温レーザー走査顕微鏡を用いることで、5Tの磁場中でもミク
ロンスケールの精度において、Y系線材中の局所的なエネルギー散
逸箇所の可視化に成功しており、有益な情報が得られつつある。こ
れ以外にも走査型SQUID顕微鏡やHall素子磁気顕微鏡等の成果も報
告された。

 一方、京大の雨宮氏からは超電導材料を「使う側」であるマグネッ
ト設計の立場から、複合超電導材料に関するいくつかの指摘がなさ
れた。ユビキタス超電導社会で用いる高性能な超電導材料の実現に
は、単なる超電導特性の向上だけでなく、ミクロからマクロにわた
るマルチスケールの視点に基づいて、電磁気的、熱的、機械的特性
に関する統一的理解が必須であり、それによって有用な特性向上が
可能となることが示された。導体化・マグネット化に適した線材アー
キテクチャを提示するためのキーテクノロジーの確立が今後の展開
において必要であることが強調された。

 研究会の最後には、出席者全員による総合討論が行われた。この
中で、従来の超電導線材作製法においては、各種製造法に起因する
諸所の事情により、超電導母材には不均一性が残っており、真の超
電導性能の実現には至っていない可能性があること、材料技術者の
ミクロな視点とマグネットや線材設計者のマクロな視点で一同に集
まり議論することが重要なこと、超電導材料の実用化においてはマ
グネット設計者のようなユーザーの立場からの設計も重要なこと、
また、使いにくいものの現在ある材料を使いこなす新しい電磁気的・
熱的・機械的設計を開発する必要のあること、さらに、高温超電導
線材製造技術が進み、今回の研究会のような視点で議論することが
できるようになったことは喜ぶべきことであること、等々が参加者
において確認され、有意義な内に閉会となった。

 最後に本研究会開催のためにご尽力いただいた関係各位に感謝い
たします。        

                          (九州工業大学 松本 要)



Last modified: Fri Jan 16 18:48:27 JST 2009