2008年度 第1回 九州・西日本支部 研究会

2008年度 第1回 九州・西日本支部 研究会のご案内


日 程:2008年6月20日(金)〜6月21日(土)
場 所:九州大学伊都キャンパス
    〒819-0395福岡市西区元岡744
会 場:ウエスト2号館3階 313室 システム情報科学府 大講義室
参加費:1,000円

スケジュール
6月20日(金)
13:00-13:10 支部長挨拶
13:10-13:30 松谷文也    九州工業大学
    「YBCOコート線材における永久電流の緩和特性の超電導膜厚依存性」
13:30-13:50 姫木携造    九州工業大学
    「CVD法によるYBCO線材の超電導特性の超電導層厚依存性」
13:50-14:10 高村真琴    九州大学
    「多層膜型2次元APC導入Y123薄膜の磁束ピンニング特性」
14:10-14:30 米倉健志    熊本大学
    「MgB2/Ni多層膜における2次元ピンニング特性」

14:30-14:40        休 憩

14:40-15:00 磯部現    九州工業大学
    「DyBCOコート線材の臨界電流特性における重イオン照射の影響」
15:00-15:20 吉田信之    九州工業大学
    「有限要素法を用いた第三高調波電圧誘導法測定時におけるn値の影響」
15:20-15:40 本田 貴裕    九州大学
    「走査型ホール素子磁気顕微鏡システムの構築と高温超伝導線材の電流分布の可視化」
15:40-16:00 阿比留健志    九州大学
    「走査型ホール素子磁気顕微鏡によるマルチフィラメント加工ならびに欠陥補修接続を施したRE123線材の電流分布評価」

16:00-16:10    休 憩

16:10-16:30 中尾彰浩    九州大学
    「液体ヘリウム温度におけるMgB2線材の常伝導部伝播現象」
16:30-16:50 山崎怜士    九州大学
    「人工ピンZrO2をドープしたGdBCO超伝導テープ線材の
     垂直磁場中における交流損失特性の温度スケーリング」
16:50-17:00 東川甲平    九州大学
    「GdBCO線材の臨界電流特性詳細評価に基づいた高磁界マグネットの可能性検討」
17:00-17:20 甲斐英樹    九州大学
    「PLD法によるBaNb2O6ドープErBa2Cu3O7-δ薄膜の超伝導特性と微細構造に及ぼす成膜温度効果」


21日(土)
10:00-10:20 上野俊輔    九州工業大学
    「Pb組成を変えたBi-2223多芯テープの臨界電流特性の評価」
10:20-10:40 中山祐輔    九州工業大学
    「定比組成Bi-2212単結晶における臨界電流密度の異方性の評価」
10:40-11:00 林田昌之    九州大学
    「分布磁場中の超伝導並列導体の交流損失特性」
11:00-11:20 井口靖明    鹿児島大学
    「YBCO積層導体の交流損失」
11:20-11:40 上之原伸一    鹿児島大学
    「ポインチングベクトル法を用いたHTSコイル内の異常検出」

12:00        昼 食 「ざうお」(九大のバスで送迎)

13:30-     特別講演会「超電導技術の現状分析と将来展望」
13:30-14:00  岡田道哉氏  (株式会社 日立製作所 日立研究所)
          「日立製作所における超電導技術開発の現状と将来展望」

14:00-14:25  下山淳一氏  (東京大学)
          「超電導材料の特性評価と材料探索の将来展望」

14:25-14:50  藤本浩之氏 (財団法人 鉄道総合技術研究所)
          「輸送における超電導技術開発の現状と将来展望」

14:50-15:15  三戸利行氏  (核融合科学研究所)
          「核融合における超電導技術の現状と将来展望」

15:15-15:30  休 憩

15:30-16:00  塩原融氏 (超電導工学研究所)
          「日本におけるY系超電導線材及び機器開発の現状と将来展望」

16:00-16:25  山田穣氏 (超電導工学研究所)
          「PLD法Y系超電導線材の現状と将来展望」

16:25-16:50  筑本知子氏 (超電導工学研究所)
          「Y系超電導線材の高特性化に向けたプロセス開発」

16:50-17:15  馬渡康徳氏 (産業技術総合研究所)
          「Y系超電導線材の交流損失特性」


当日様子の報告



九州・西日本支部では、2008年度 第1回 支部研究会を6月20日
(金)〜21日(土)の2日間に亘り九州大学大学院システム情報科
学研究院(伊都キャンパス)にて実施した。大学関係研究者と大学院
生を中心に55名(発表者17名、講師8名、一般参加30名)の参加が
あり盛況であった。初日と二日目の午前中は支部の学生を中心とし
た研究発表であった。昨年度より発表が支部長賞の対象となること
から学生からの積極的な発表があり、今回も17件もの発表があった。
学生の発表のレベルや目的はさまざまであった。博士前期課程1年
生では、まだ全国大会レベルの学会での発表の経験が少なく、この
支部研究会を利用して自分の発表レベルを向上させようという目的
で発表している学生もいた。一方で、博士前期課程2年生や博士後
期課程になると、発表時間の15分を有効に利用して通常の学会の10
分の発表時間では伝えきれない内容を発表し、さらに忌憚のない質
疑を通じてより次の研究方針につないでいるようだった。したがっ
て通常の学会発表とは異なる質の発表ができているように感じた。
そういった意味で電気関連学会九州支部会や、応用物理学会九州支
部会とはまったく異なったレベルと雰囲気の研究会になってきた。
今後も支部研究会での学生の育成の目的からも、発表を奨励して行
く予定である。

二日目の午後は特別講演会であり、「超電導技術の現状分析と将来
展望」というテーマで8名の講師に講演をいただいた。講演の内容
は学生向きにアレンジされており、わかりやすく網羅的にしていた
だいた。なお、二日目の夕方からは福岡市内ホテルで山藤馨先生の
瑞宝中綬章受章を記念した祝賀会があり、支部研究会の参加者は多
くが超電導関係グループとして参加し、お祝いを行ったことを付記
しておく。

                  (九州工業大学 小田部荘司)

具体的な発表と講演内容は以下の通りである。
6月20日(金)
松谷文也 九州工業大学
「YBCOコート線材における永久電流の緩和特性の超電導膜厚依存性」
PLD法によるYBCOコート線材について膜厚が緩和特性に及ぼす影響
を調べた結果、高温領域では2次元ピンニングとなるため、ピンニ
ング・ポテンシャルの違いにより薄い試料ほど緩和が顕著になるこ
とが分かった。

姫木携造 九州工業大学
「CVD法によるYBCO線材の超電導特性の超電導層厚依存性」
CVD法によるYBCO線材の厚い依存性について調べた結果、高磁界や
低電界では厚い試料の超電導特性が優れていることが分かったが、
PLD法試料と組織の厚さ依存性が異なるため、特性は多少異なる。

高村真琴 九州大学
「多層膜型2次元APC導入Y123薄膜の磁束ピンニング特性」
a軸配向膜Y123/Pr123多層膜についてY123膜の電流輸送特性の調査
を行った。Birrを調べることで、Pr123の2次元ピンニング・センター
がマッチング磁場において最も有効に働いていることが分かった。

米倉健志 熊本大学
「MgB2/Ni多層膜における2次元ピンニング特性」
膜面に対して平行方向の磁場におけるJcを向上させ、異方性を減ら
すため、Ni層をab面内に挿入して2次元のピンニング・センターと
して作用させた。その結果、このピンニング・センターは,c軸方
向の界面ピンとはピンニング・パラメータの磁場依存性が異なるこ
とが分かった。

磯部現 九州工業大学
「DyBCOコート線材の臨界電流特性における重イオン照射の影響」
導入する欠陥のサイズと数密度を変えて臨界電流特性に与える影響
を調べた。その結果、欠陥半径が大きく、数密度の多いピンの導入
が効果的であることが分かった。

吉田信之 九州工業大学
「有限要素法を用いた第三高調波電圧誘導法測定時におけるn値の影響」
第三高調波電圧誘導法の測定結果においてoff-set法によって得ら
れたIthより求めたJcの妥当性について有限要素法を用いて検証し
た。その結果、設定したJcから誤差±5%以内のJcを得られるn値は
27以上であることが分かった。

本田貴裕 九州大学
「走査型ホール素子磁気顕微鏡システムの構築と高温超伝導線材の電流分布の可視化」
走査型ホール素子磁気顕微鏡システムを構築し、高温超伝導線材の
電流分布の可視化を行った。その結果、リフトオフが大きいと誤差
が出やすいことを示し、可視化により局所的な欠陥の検出が出来る
ことを示した。

阿比留健志 九州大学
「走査型ホール素子磁気顕微鏡によるマルチフィラメント加工なら
びに欠陥補修接続を施したRE123線材の電流分布評価」
マルチフィラメント構造を施した線材ならびに補修接続を施した線
材の通電状態の評価を行った。補修線材では印加電流を増加したと
きの線材間の電流の遷移の様子を明らかにでき、マルチフィラメン
ト構造線材については交流電流時の電磁現象の観測に有効であるこ
とが分かった。

中尾彰浩 九州大学
「液体ヘリウム温度におけるMgB2線材の常伝導部の伝播現象」
MgB2線材における常電導伝播速度に及ぼす液体ヘリウムの過渡的な
冷却効果や熱拡散の効果について理論値と実測値から評価した。そ
の結果、裸部では液体ヘリウムの過渡冷却、グリース部ではグリー
ス層内の熱拡散を考慮することが重要であることが分かった。

山崎怜士 九州大学
「GdBCO超電導テープにおける交流損失特性の温度スケーリング」
様々な超電導テープ線材の交流損失の温度特性の評価と、温度スケー
リングが可能であるか調べた。その結果、臨界電流密度の磁場依存
性における折れ曲がり点の磁界Bpの温度依存性と、ある一つの温度
での交流損失が分かれば他の温度における交流損失を見積もること
が出来ることを示した。

東川甲平 九州大学
「GdBCO線材の臨界電流特性詳細評価に基づいた高磁界マグネットの可能性検討」
長尺プロセスで作成されたGdBCO線材の電流輸送特性を詳細に評価
し、高磁界マグネットとしての可能性を検討した。その結果、線材
のフープ応力が1GPaを超えないという制約下でも、40Tを超える高
磁界マグネットの実現の可能性があることが分かった。

甲斐英樹 九州大学
「PLD法によるBaNb2O6ドープErBa2Cu3O7-δ薄膜の超電導特性と微
細構造に及ぼす成膜温度効果」
超電導薄膜への人工ピンニング・センター導入による特性の向上を
目指した。その結果、低温で成長させることでナノロッドの直径は
小さくなると共にナノロッドの数密度が高くなり、細分化に伴う磁
束ピンニング力の向上がみられた。

6月21日(土)

上野俊輔 九州工業大学
「Pb組成を変えたBi-2223多芯テープの臨界電流特性の評価」
Pb組成の異なるBi-2223多芯テープのIcの評価と、特性向上のメカ
ニズムを考察した。その結果、Pb添加によって凝縮エネルギーは増
加したが異方性の減少傾向は見られなく、これと結晶軸の配向性が
臨界電流密度の磁界角度依存性を決めていると考えられる。

中山祐輔 九州工業大学
「定比組成Bi-2212単結晶における臨界電流密度の異方性の評価」
定比組成に近づけることによるブロック層の超伝導性の変化を調べ
る目的で、組み合わせた磁化測定から面内および面に垂直に流れる
臨界電流密度を区別した。その結果、定比組成に近づけることで、
臨界電流密度の異方性が小さくなることが分かった。

林田昌之 九州大学
「分布磁場中の超伝導並列導体の交流損失特性」
酸化物超電導線材によって構成された転位並列導体の付加的交流損
失の基礎特性を明らかにすることを目指した。その結果、一様磁界、
不均一磁界に関わらず、飽和条件下では付加的交流損失は転位のず
れΔlに比例し、非飽和条件ではΔlの2乗に比例することが分かった。

井口靖明 鹿児島大学
「YBCO積層導体の交流損失」
YBCO積層導体と、その導体で巻線されたコイルの交流損失の評価を
行った。結合損失評価ではHastelloyとHastelloyを向かい合わせて
積層(Ha-Ha),またはCu層とHastelloyを向かい合わせて積層
(Cu-Ha)した場合の結合損失が小さいことが分かり、Ha-Haで巻線
されたダブルパンケーキコイルの交流損失は短尺導体と同様に評価
できることが分かった。

上之原伸一 鹿児島大学
「ポインチングベクトル法を用いたHTSコイル内の異常検出」
非接触測定が可能なポインチングベクトル法による超電導コイルの
異常検出システムの開発を行った。今回は非接触で異常を検出して
その程度を判断させることの可能性を検討し、その結果、超電導コ
イルの異常の程度を判断できる見通しを得た。

6月21日(土) 特別講演

岡田道哉氏 株式会社 日立製作所 日立研究所
「日立製作所における超電導技術開発の現状と将来展望」
日立製作所における研究開発を、超電導材料開発、環境・エネルギー
応用、超電導薄膜とその応用、医療・バイオ応用に大きく分けて説
明し、新素材に対する期待などの講演を行った。

下山淳一氏 東京大学
「超電導材料の特性評価と材料探索の将来展望」
Bi-2223を中心とした超電導材料の今までとこれからについて工業
分野応用を例にあげて分かりやすく解説し、新規超電導材料物質誕
生の可能性を示唆した。また2040年が時代の節目となるとして、脱
ヘリウムが可能な高温超電導体について講演を行った。

藤本浩之氏 財団法人 鉄道総合技術研究所
「輸送における超電導技術開発の現状と将来展望」
宇宙・航空分野と鉄道分野の二つに分けて超電導モータや超電導自
動車など最新の情報を紹介しながら研究開発について説明した。ま
た、鉄道車両用超電導主変圧器の開発について実用への壁である交
流損失の問題解決へと向け、開発テストをしているとした。

三戸利行氏 核融合科学研究所
「核融合における超電導技術の現状と将来展望」
世界の核融合実験装置の超電導マグネットについての現状を、概要
説明を踏まえながら説明した。また核融合に必要な超電導技術は現
在の技術の延長線上にあるとして、核融合超電導技術の将来につい
て高い期待を示した。

塩原融氏 超電導工学研究所
「日本におけるY系超電導線材及び機器開発の現状と将来展望」
Y系超電導線材のメリットをあげて、開発状況やその性能などを説
明した。超電導機器要素技術開発についても講演を行い、耐過電流
技術や低交流損失技術、大電流技術など図表を交えて分かりやすく
説明した。

山田穣氏 超電導工学研究所
「PLD法Y系超電導線材の現状と将来展望」
Y系超電導線材の開発についての進展とその性能を説明した。それ
に伴い、様々な研究機関が持つ高い技術力について示した。また、
SMEやケーブル、変圧器の現状における位置付けと目標を達成させ
るための課題などを講演した。

筑本知子氏 超電導工学研究所
「Y系超電導線材の高特性化に向けたプロセス開発」
Y系超電導線材について高特性化を目標としたプロセス開発につい
て、様々なアプローチを分かりやすく紹介した。また、ターゲット
組成最適化により、均一組織をもつc軸配向厚膜を成膜することで
Icが0Tで700A/cm 以上になることを示した。

馬渡康徳氏 産業技術総合研究所
「Y系超電導線材の交流損失特性」
Jc0の膜厚の分布、強磁性基板を持つ超電導テープ線材の交流損失
について理論式を用いて説明した。テープを無限にスタックした場
合、スタックが密になるほどロスは大きくなることや、ケーブル状
導体の交流損失では線材同士の間のギャップを小さくするとロスは
減るが限界があるとした。


松下支部長による開会の挨拶


二日目の昼食の様子


Last modified: Fri Jun 27 19:10:12 JST 2008