2007年度 第1回 九州・西日本支部 研究会

2007年度 第1回 九州・西日本支部 研究会のご案内


 九州・西日本支部では、九州大学工学部および関連施設が新キャ
ンパスに移転したことを記念して、新キャンパスにおいて、以下の
要領で研究会を開催いたします。学生向けの超電導および核融合の
基礎に関する講義に加え、Bi2223線材および次世代線材として開発
が進められているYBCO線材、さらに機器開発に関する講演をお願い
しています。また、一新された超伝導システム科学研究センターお
よび新設の低温センター(伊都分室)の見学会も計画しています。
奮ってご参加ください。
 また、10/13(土)には支部の研究成果報告会を実施の予定です。
会員の皆様からの発表を募集いたしますので、発表頂ける方は「氏
名、所属、演題、連絡先」を9/28(金)までに支部事務局
(jcryo_qw@sc.kyushu-u.ac.jp) 宛にご連絡下さい。

テーマ:超電導技術の基礎と最近の動向
日 程:2007年10月12日(金)−10月13日(土)
場 所:九州大学大学院システム情報科学研究院 大講義室(ウエスト2号館3階313号室)
    〒819-0395福岡市西区元岡744 伊都キャンパス
参加費:参加費1,000円(当日徴収。懇親会費は別途。)

プログラム:
10月12日(金)
(1)13:30〜13:45 学会長、支部長挨拶
(2)13:45〜14:15 藤本浩之氏(鉄道総研) :超電導技術の運輸分野への応用
(3)14:15〜15:15 柳長門氏(核融合研) :核融合と超電導技術
   15:15〜15:30    休 憩
(4)15:30〜16:00 和泉輝郎氏(SRL) :YBCO線材開発の現況
(5)16:00〜16:30 山田 穣氏(SRL名古屋) : REBCO線材の磁場特性の向上とコイル試作
(6)16:30〜17:30 塩原 融氏(SRL) :超電導材料開発から線材及び応用への展開
(7)17:30〜18:10  超伝導システム科学研究センターおよび低温センター見学会
(8)18:10〜21:00  市内中心部へ移動の後、懇親会

10月13日(土)
支部の研究成果報告会

    9:00- 9:05 開会の挨拶
(1) 9:05- 9:25 吉田次郎(九州大学):TFA-MOD法によるYBCO薄膜の仮焼膜組織とJc特性
(2) 9:25- 9:45 多田圭佑(九州大学):TFA-MOD法により作製したBa組成の異なるYBCO薄膜の結晶成長過程
(3) 9:45-10:05 今村和孝(九州大学):一軸引張・圧縮歪の影響下におけるYBCO線材の臨界電流特性
(4)10:05-10:25 磯部現(九州工業大学):DyBCOコート線材の臨界電流密度評価
   10:25-10:35  休 憩
(5)10:35-10:55 高村真琴(九州大学):2次元APCを導入したY123膜の電流輸送特性
(6)10:55-11:15 甲斐英樹(九州大学):PLD法で作製したBaNb2O6 ドープErBa2Cu3O7-δ薄膜の超伝導特性と微細構造
(7)11:15-11:35 米倉健志(熊本大学):EBE法によって作製されたMgB2/Ni多層膜の臨界電流密度特性
(8)11:35-11:55 何 継方(山口大学):微細加工により人工ピンニングセンターを導入した超伝導Nb膜のMO観察
   11:55-13:20  昼 食
(9)13:20-13:40 宇田川眞行(広島大学):ラマン散乱で見るカゴに捕獲された原子の運動
(10)13:40-14:00 姫木携造(九州工業大学):YBCO-coated線材の永久電流の緩和特性
(11)14:00-14:20 阿比留健志(九州大学):ホール素子走査顕微鏡による実用YBCO線材の電流分布測定
(12)14:20-14:40 本山皓士(九州大学):配向NiW基材上に形成したフィラメント状YBCO線材の電流輸送特性
(13)14:40-15:00 高山伸一(九州工業大学):加圧焼結法Bi-2223多芯テープの臨界電流の磁界角度異方性の評価
   15:00-15:10  休 憩
(14)15:10-15:30 戸町恭平(九州大学):エネルギー最小化条件を用いた円柱型超電導体の磁化特性評価
(15)15:30-15:50 横尾亮佑(九州大学):MMPSC法を用いた高温超電導バルク体のパルス着磁に関する有限要素解析
(16)15:50-16:10 柳田治寛(九州大学):REBCO超伝導テープ線材の外部磁界印加時の交流損失特性
(17)16:10-16:30 田代信人(鹿児島大学):ピックアップコイル群によるHTSコイルの電流分布測定
(18)16:30-16:50 中村 章(九州大学):超伝導転位並列導体の各種磁界分布及び転位のずれによる付加的交流損失
(19)16:50-17:10 徳田将展(鹿児島大学):ポインチングベクトル法を用いた超伝導コイルの異常検出


世話役:木須隆暢、岩熊成卓、船木和夫
問合せ先:九州大学大学院システム情報科学研究院 木須隆暢
〒819-0395福岡市西区元岡744
TEL : 092-802-3678 FAX : 092-802-3677 E-mail : kisu@ees.kyushu-u.ac.jp

※ 開催場所は九州大学伊都キャンパスです。アクセス方法はここです。
土曜日は建物の通常の入り口はすべてロックされますので、出入り 可能な入り口は事前に解錠を指定したもの限られます。 これを参照してください


   
   

当日のレポート




九州・西日本支部では、2007年度 第1回 研究会を10月12日(金)〜
13日(土)の2日間に亘り九州大学大学院システム情報科学研究院
にて、伊都新キャンパスへの移転を記念して実施した。当初8月3日
に計画していた本研究会は、台風5号の影響で順延になったにもか
かわらず、大学関係研究者と大学院生を中心に約70名の参加があり
大盛況であった。伊都キャンパスに初めて足を運んだ参加者も多く、
設備や周囲の環境は研究教育を行う上で格好の場であるという感想
が数多く聞かれた。初日は外部の講師を招いての研究会、2日目は
支部の学生を中心とした支部研究成果報告会の二部構成である。

初日の研究会のテーマは「超電導技術の基礎と最近の動向」で、前
半は鉄道分野と核融合における超電導技術の応用例、後半はRE-123
次世代超電導線材の最新動向について、第一線でご活躍の研究者の
方々に講演を頂いた。講演の内容は次の通りであった。

藤本浩之氏(鉄道総研)は、「超電導技術の運輸分野への応用」と
題して、主に鉄道車両用の超電導変圧器に関する研究について環境
問題の話題も織り交ぜて講演された。元来鉄道車両のCO2排出量は、
車と比べ9分の1、航空機と比べても6分の1と少ないが、超電導技術
によりさらなる低減を目指していることや、鉄道車両の構成要素の
うち一番重い車両用変圧器を軽くすることで様々なメリットがある
ことなどが紹介された。在来線や新幹線用として、架線電圧20〜
25kVを1kV程度に降圧した低損失・軽量化を目指した超電導変圧器
の開発経緯や今後の開発計画が説明された。また、鉄道車両におけ
る電力回生失効対策用超電導フライホイール開発や船舶用超電導モー
タなど、超電導応用機器の最近の話題も紹介頂いた。

柳長門氏(核融合研)は、「核融合と超電導技術」と題して、学生
向けの核融合の基礎的な話から、LHDの開発過程やこれまでの実験
結果、さらには将来計画まで講演された。特に1998年10月に一度だ
け発生したクエンチ時の状況報告からは、当時の緊迫した様子がひ
しひしと伝わってきた。現在、過冷却(サブクール)で冷却性能を
上げ、磁場を2.75Tから2.85Tに上昇させて実験中とのことであった。
また、将来計画されている1GW/120GJのHelical Demo Reactor
(FFHR)の話では、巻線用の候補導体として、実績のあるNb3Snや耐
歪み特性の良好なNb3Al、低放射化材料のV3Gaなどが挙げられてい
ることが紹介された。候補導体のオプションとして安定性に優れて
いるYBCO線材も検討されているが、転位やヘリカル巻きをどのよう
に行うかなどの課題あることも示された。

和泉輝郎氏(SRL)は、「YBCO線材開発の現況」と題して、主に
TFA-MOD法によるコート線材の開発状況について講演された。
TFA-MOD法では膜厚を厚くすることによりIcが比例して大きくなる
という理想的な状態を実現できることが特徴で、それはBaを若干減
らした組成で反応させることにより炭化物を作らせないことで可能
にしたことを説明された。また短尺では735A/cm-widthの臨界電流
を得ており、さらに(Y, Sm)BCOにすることにより、人工ピンの導入
に成功し、磁気的異方性の少ない線材を作ることができることが示
された。さらに極低コスト線材の可能性についても報告があった。

山田 穣氏(SRL名古屋)は、「REBCO線材の磁場特性の向上とコイ
ル試作」と題して、最初にIBAD/PLD法によるコート線材の開発状況
について説明された。人工ピンとしてはBZOの導入により異方性の
少ない線材を作ることができ、またLa2O3 の導入により等方的とな
ることが示された。さらに、実際にコイルに巻いて超電導磁石にし
た例も紹介された。30mmφに巻いた50m長のコイルで77K, 74.2Aで
0.5Tを発生させ、4.2K, 895Aでは5.7Tを発生できており、また14T
バイアスマグネット中で合計20.1Tの磁場発生にも成功している。
これらの成功例は今後テープ材が応用に使用されて行くということ
を現実に感じさせるものであった。

塩原融氏(SRL)は、「超電導材料開発から線材及び応用への展開」
と題して、幅広い話題について講演された。Bi系に比べてなぜY系
の開発を進めなければならないのか、コストをいかに削減するかな
どを、聴衆の大半が学生であることを考慮して、分かりやすく具体
的に説明されたので大変ためになった。今年度で超電導応用基盤技
術研究開発(第II期)が終了し、新しい計画が立ち上がろうとする
この時期に、今後の見通しなどについてもいろいろと議論を頂いた。

講師による講演後、新キャンパスに移転した超伝導システム科学研
究センターおよび新設の低温センター(伊都分室)の見学会が行わ
れた。毎時200Lのヘリウム液化ができる装置は壮観であった。また
真新しい実験室や研究室は素晴らしかった


研究会2日目には支部の研究成果報告会が行われた。全部で19件の
発表があり、これは電気関連学会九州支部や応用物理学会九州支部
での超電導関連の発表件数に比べて多く、内容も充実しているとい
う印象であった。次のような報告があった。

吉田(九大)は、TFA-MOD法においてJc特性の良いYBCO薄膜を得る
には仮焼条件を低温熱処理とし、poreが少なく析出粒子が細かい前
駆体を得ることが重要となることを示した。多田(九大)は、
TFA-MOD法においてBa濃度を減らして製作したYBCO膜の特性向上要
因について検討し、未反応部の元素偏析による結晶成長の影響や、
CuOなどの析出粒子の数が関係していることを示した。今村(九大)
は、YBCO線材の歪み試験と通電実験を行い、引張負荷歪み率の増加
に従って、Jcが低下することを示した。磯部(九工大)は、ISD法
を用いて作製したDyBCO線材のJcの面内部を調べ、Jcにばらつきが
存在する原因として、電流が流れないような欠陥が一部に生じたた
めであること示した。

高村(九大)は、Y123/Pr123多層膜の成膜により、2次元人工ピン
ニングセンターを導入したY123膜の解析を行い、多層膜がc-軸相関
ピンを有していたことや、Y-123層厚とTcに関係があることを示し
た。甲斐(九大)は、ErBCO薄膜へのBZO導入はTcが低下する可能性
があるため、新たにBNOをピンニング材料として作製し、その結果、
Tcを劣化させることなくBNOが効果的なピンニング材料であると示
した。米倉(熊本大)は、EBE法によるMgB2/Ni積層膜を作製し、解
析した結果、Ni層がab面方向に有効なピンニングセンターとして働
くことを示した。何(山口大)は、MOイメージング法を用いて非対
称なステップ状人工ピンを導入した超電導Nb膜における磁束密度の
分布の観察と、対称な人工ピンとの比較を行い、整流素子の可能性
について検討した。

宇田川(広島大)氏からは、ラマン散乱についての原理とBaTiO3に
関する研究について、分かりやすく解説頂いた。姫木(九工大)は、
YBCOコート線材の温度、試料厚さが緩和特性に与える影響を調べ、
厚い試料の方が緩和率が低く、n値が増加することを示した。阿比
留(九大)は、ホール素子走査顕微鏡によりYBCO線材の電流分布測
定を行い、YBCOの局所欠陥位置を検出し、欠陥近傍の電流分布の影
響の評価ができることを示した。本山(九大)は、配向NiW基材上
に形成したフィラメント状YBCO線材の電流輸送特性に関する測定を
行い、低磁場領域では線幅の短い試料は粒間の特性が支配的になる
ことを示した。高山(九工大)は、加圧焼結法Bi-2223多芯テープ
の臨海電流の磁界角度異方性の評価を行い、misorientation角の小
さな試料の結晶配行が進んでいることから、Jc-B (B // tape)が優
れていることを示した。

戸町(九大)は、円柱型超電導体にパルス磁界を印加した場合の磁
化特性を理論的および数値的に評価を行い、それぞれの場合から、
円柱の表面磁界が最大となる条件を求めた。横尾(九大)は、
MMPSC法を用いて高温超電導バルク体のパルス着磁に関する有限要
素解析を行い、実験結果と定性的に一致したことから、MMPSC法の
着磁過程を数値計算により確認した。柳田(九大)は、様々な
REBCO超電導テープ線材の交流損失特性の評価を行い、ある温度に
ついての交流損失と、Jc0の温度依存性が分かれば、任意の磁界印
加角度や他の温度についての交流損失を見積もれることを示した。
田代(鹿児島大)は、ピックアップコイル群によるHTSコイルの電
流分布を簡便に測定する方法を検討し、試験導体で作製した単層ソ
レノイドコイルに電流を通電したときの通電電流の実測値と測定値
が良い精度で一致することを示した。中村(九大)は、2本並列導
体において、外部印加磁界が一様でない場合の印加的交流損失につ
いて理論式を導出し、不均一磁界中における付加的交流損失の特性
を明らかにした。徳田(鹿児島大)は、ポインチングベクトル法を
用いた異常監視・診断システムを構築し、このシステムが超電導コ
イルの異常検出に有効であることを実証した。

午前9時から開始された2日目の研究会は、昼食を挟んで、夕方5時
過ぎまで続き、活発な議論が展開された。今回の研究会は今後の支
部の研究活動にとって非常に有意義な場となった。最後に、講演者
の皆様、ご協力頂いた関係各位に感謝申し上げます。

(九工大 小田部荘司、鹿児島大 川畑秋馬)



研究会の様子


Last modified: Wed Jan 16 11:15:09 JST 2008